冬はつとめて。でもさすがに寒すぎると、そんなこと言えないんじゃないか。寝落ちたせいで布団の中に入り込んでいたスマホを探し出すと、三件の通知が来ていた。
「そうだ、今日ゆきんこ見たよ。受験勉強の気分転換もかねて、明日一緒に散歩して探そうよ」
「あ、明日ってもう今日か」
「寝ちゃった?またあしたね」
今日だと直したのに、またあしたと言うのが彼女らしい。せっかく時間を決めて古典の勉強をしていたのに、日付が変わってすぐに寝落ちて悪かったなと思う。
ひんやりとした空気が顔に降りてくるのが嫌で、手にしたスマホごと布団に潜り込む。多少の画面の結露は無視だ。彼女とはよく会うし一緒にいる時間も長いけど、散歩に誘われたのは初めてだ。散歩ってどうするんだろう。この辺りには公園みたいに広い場所はないから、適当に歩くとか?
ついでに、ゆきんこというのも謎だ。子どものことかな。たしかに彼女は子ども好きだ。でも、その子どもに対して「探そうよ」なんて言わないと思う。ゆきんこ……ケサランパサランのことか? わからない。
初めて散歩に誘われたことと、ゆきんこへの興味で返事の内容は決まった。
「散歩いいね。ゆきんこってなに?気になる」
画面がだいぶ雲ってきた。寝返りを打って顔を布団から出してみる。途端、やってきた冷気に大きく身震いする。やっぱり起きるにはまだ早い。布団の中でうだうだして、秋冬の良さを満喫しておこう。
そういえば、冬はつとめて、の後はなんだったっけ。雪で白くなっているのが綺麗とかそんなだったかな。最後はわろしとか書いてあった気がするけど、なにが悪いのかは覚えていない。ゆきんこはどうなんだろう。イメージとしては白っぽいなにかだけど……。
思いの外早く彼女から返信があった。
「おはよ!じゃあいつもの時間に集合ね」
「ゆきんこ知らない?じゃあどんなものか当ててみて!」
楽しそうに笑う彼女の顔を想像してから、ゆきんこの正体を探るべくメッセージを返す。
「集合了解。いつもの場所だよね」
「清少納言だったらゆきんこのこと、いとおかしって言う?」