支給されたばかりの軍服が自室にある。セルピアにとって、それは大きな前進を実感させるものだ。
「汚れてないよね……シワもなし、と!」
すでに何回か繰り返したチェックを再度おこなう。何度やっても結果は変わらないのだが、隅から隅まで確認している。服に自我があれば、いい加減鬱陶しいと突き放されていることだろう。
自室に帰ってきてから、セルピアはずっと浮わついている。念願の軍属を果たし、それが「軍服」という目に見えるものになったからだ。
「わたしの配属チームは一人だったけど、どんな人たちがいるのかな。衛生とか技術系の仕事だといいなあ」
二年の訓練を経て、セルピアは自身があまり戦闘に向いていないことを自覚していた。家系は文官である程度の地位を築いた過去があるため簡単な護身術は知っていたが、それは決して戦えるレベルのものではなかった。一方、座学や応急処置などの後方支援は自他共に得意と認める分野だ。軍部が持つ貴重な資料の閲覧が叶うと知って軍属を希望したセルピアとしては、現在戦争を回避できている状況とはいえ、低リスクで調べものをしたいところだった。
明日からの仕事に想いを馳せていると、鐘が鳴った。無意識にその数を数えて、いつの間にか夜がすぐそこまで来ていることに気づく。
「だめだ、眺めてるだけで一日が終わっちゃう。明日のためにもさっさと食事して寝よう……」
軽く身形を整えて、セルピアは自室を出る。扉を閉める前に軍服を見て、静かに鍵をかけた。
(盗まれないよね)
考えても仕方のない心配を、セルピアは軽く頭を横に振って追い出す。廊下を歩いて外へ出ると、ちょうど勤務を終えたらしい男性が一人、戻ってきたところだった。すかさずセルピアがぴっしりと敬礼すると、男性は笑顔で敬礼を返した。
(あんな感じの人のもとだといいな)
緊張と期待で早足のセルピアは、何度も世話になっている食堂へ向かった。無事に軍属できたことを報告し、普段頼まないデザートも食べよう。そう考えているだけで心が踊る。もちろんこの時のセルピアが、明日の事件を知るはずもない。