いぬねこ

 ペットに「ネコ」という名前を付けたことを、とても後悔している。
 私がネコと会ったのは、十四年前。友人の家で飼われていた「むーちゃん」が産んだ子どもの中から、一匹を譲ってもらった。当時の私はまだ小学生で、とにかくネコが好きだった。だから安直に、「ネコ」という名前を付けたのだ。ネコが、犬であることを無視して。
 ネコは賢かった。ネコという名前をすぐに覚えたし、ある程度の芸も教えればできるようになっていった。どう考えても育て方は犬なのに、ネコと呼べば静かに側に来てくれた。その仕草は本当に猫のようで、犬と猫のいいとこ取りな子ね、と母がよく褒めていた。ネコという名前に一番反対したのは母だったけど、名前を決めたあとはちゃんとネコと呼んでいた。
 そのネコが、昨日から行方知れずになった。リビングの窓が開いていたから、おそらくそこから外へ出たんだと思う。玄関の防犯カメラには、よろよろと歩くネコが映っていたから、誰かに連れ出された訳でもない。
 昨日、最後に外出したのは私だ。戸締まりはいつもちゃんとやっていたけれど、昨日に限ってどうだったか不安でたまらない。ネコは賢いから、窓を開けっぱなしにしていたときでも脱走なんてしなかった。その経験があったから、ネコなら大丈夫だと思い込んでしまったのかもしれない。
 どうしよう、後悔ばかりが膨れ上がる。最悪の想像を掻き消したくて、もう一度靴を履いてネコを探しに出た。ネコはたぶん、猫らしくしてきた。でも、たまに犬らしさを隠しきれないときもあった。私の我が儘で猫を演じさせてごめん。お願い、帰ってきて。

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